乱用(スル)
[名]一定の基準や限度を越えてむやみに使うこと。「カタカナ語を―する」「職権―」
(goo国語辞書より引用)
too good =「良すぎる」?
出典(https://www.chunichi.co.jp/article/256579)
上記は日本人メジャーリーガー・大谷翔平選手の活躍を伝える記事の1つだが、見出しの「良すぎる」についつい反応してしまった。
こんな言い方、日本語では普通はしないだろう。
おそらく too good を訳したものにちがいない。
そう思って記事を読むと、ある放送局のプロデューサーが英語でツイートしたものの和訳であることがわかった。
そのツイートがこちら。
Let Shohei Ohtani change teams. He’s too good for the Angels.
— Matthew Coca (@MatthewCocaCBS) May 19, 2021
上記の He’s too good for the Angels を直訳すれば、確かに「(彼は)エンゼルスには良すぎる」となる。
しかし、曲がりなりにも記者ならば、自分の日本語にもっと関心を払うべきだろう。
「何となく言いたいことは分かる」と読者に思われてしまうようでは恥ずかしい。
日本人が読んで違和感のない、適切な表現を考えるべきである。
too を「~すぎる」と訳す前に
too の定義
なんでもかんでも too =「~すぎる」とするのはやめたほうがいい。
まずは too 本来の定義を確認しよう。
too
More than enough; excessively
(American Heritage Dictionary)
上記の辞書の定義を直訳すると「十分を超えて;過度に」となっている。
要するに、適切なラインを超えている、限度を過ぎているということである。
想像力を働かせよう
He’s too good for the Angels.
エンゼルスというチームにとって、大谷選手は too good である。
too が「限度を超えている」を表すのであれば、too good というのは「良さの程度が高すぎる」ということ。
コップに水をくむ場面を想像しよう。
大谷選手の良さ=水、彼の所属するエンゼルスというチーム=コップ、と思えばわかりやすい。
エンゼルスというコップには、大谷選手の良さが入りきらずあふれてしまっている。
そんな感覚から生まれた表現こそ、
He’s too good for the Angels. なのだ。
だから、これを日本語に直すなら、コップから水があふれている場面を見た日本人が言いそうな言葉を考えるのだ。
そう、「もったいない」だ。
He’s too good for the Angels. は、
「(彼は)エンゼルスにはもったいない」が適切だろう。
訳す とはこういうことだ。
和訳=悪?
近年では、学校教育現場で英語を学ぶ際に日本語を極力介在させない取り組みがなされているという。
英語を英語のまま理解するのが良いという理念があるようだ。
そして、これがどうも極端になると、
「英語の勉強に日本語は邪魔だ」
「和訳は悪だ」
といった言葉すら聞こえてくる。
しかし、インターネットを使ったニュース記事以外にも、メール、SNSなど、ここ最近は文字を読む機会が増えてきているように思える。
英語を日本語に直す能力を鍛えないまま、単に英語力があるからというだけで和訳担当になってしまうと、今回の記事のような拙い日本語記事が生まれてしまうのもしかたない。
しかし、単なる直訳ならAIだってできるだろう。
上に書いたように、一度頭の中で想像力を働かせてから言葉を置き換えるという、まだまだ今のAIにはできないであろう能力を我々人間の脳は持っているのだから、これを働かせない手はないと思うのだが。
もっと言えば、母国語を捨てて外国語を取るのではなく、母国語と外国語を頭の中で共存させたほうが、人類の頭脳の発展に寄与するのではないかとさえ思う。
かつて福沢諭吉ら明治維新の英雄たちが、海外の新しい概念を日本に持ち込んだことで日本が発展したように。
ちょっと壮大すぎるか。
ともあれ、私はこれからも英語の「訳し方」を発信し続けていこうと思う。
和訳は悪じゃないよ。
(文法もね。)
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