星野源さんの「うちで踊ろう」動画にコラボした安倍首相の動画について、イギリスの報道機関ロイター(Reuters)が記事を書いています。
関係詞を初め、英語の学習に良い表現がたくさん含まれていたので、記事を一部引用して解説と和訳を付けました。
記事全文はこちら(外部サイト)からどうぞ。
重要部分の和訳と解説
記事タイトルの文法
Japan prime minister criticised as tone deaf after lounge-at-home Twitter video
翻訳例
日本の総理大臣 自宅でくつろぐ姿をツイッターに投稿し空気が読めないと批判される
※管理人訳
語句
・prime minister: 総理大臣、首相
・criticise A as B: AをBだと批判する
・tone deaf: 音痴の;空気が読めない
・lounge: ゆったりとくつろぐ
文法解説
通常の文であれば、
Japanese prime minister was criticised ~
と書くべきところですが、記事タイトルには簡潔さを求めて独自の文法があります。以下に有名どころをまとめます。
- 過去の出来事は現在形で表す
- 未来の出来事はto doで表す
- 進行形・受動態のbe動詞は省略する
- 冠詞も省略する
- なるべく短い語句を使う
今回は上の2つ、「受動態のbe動詞省略」と「短い語句の使用」が該当しています。ちなみに、ここでは prime minister となっていますが、下のようにより短くPMと書かれることも多いです。
Japan PM to Declare State of Emergency as Early as Tuesday (U.S.News)
「日本の首相 早ければ火曜日にも緊急事態宣言発令へ」
なお、tone deaf(tone-deaf)とは基本的に「音痴の」という意味の形容詞なのですが、次の辞書のように「他人に気を配れない」といった意味を持つ場合があります。日本語的には「空気の読めない」といった訳があてはまります。
tone-deaf
1. Unable to distinguish differences in musical pitch.
2. Unable to appreciate or understand the concerns or difficulties of others; out-of-touch.
(American Heritage Dictionary)1: relatively insensitive to differences in musical pitch
2: having or showing an obtuse insensitivity or lack of perception particularly in matters of public sentiment, opinion, or taste
(Merriam-Webster)
意味上の主語+動名詞、ほか
Japanese Prime Minister Shinzo Abe on Sunday drew an angry response from some Twitter users after sharing a video of himself lounging on a sofa with his dog, drinking tea and reading, with a message telling people to stay at home.
翻訳例
日本の安倍晋三首相は日曜日、人々に家にいるよう伝えるメッセージとともに、愛犬と一緒にソファでくつろいでいる姿や、紅茶を飲んだり、本を読んだりしているビデオをツイッターに投稿すると、一部の利用者から怒りの声が上がった。
※管理人訳
語句
・drew: draw(~を引く)の過去形
・response: 反応
・tell O toV: OにtoVするよう言う
文法解説
1.文型
英文を読み慣れていない人にとってはとても長く感じるでしょうが、これで一つの文であり、文型はSVO(第3文型)です。
S: Japanese ~ Abe
V: drew
O: an angry response
文型部分だけを直訳すると「日本の安倍晋三首相は怒りの反応を引いた」となり、残りの部分(on Sunday、from some Twitter users ~ at home)は当然ながらすべて修飾語です。
2.after sharing a video
after は接続詞か前置詞のいずれかとして働きます。ここでは後ろにSVではなくVingが続いているため、after は前置詞であると判断できます。after が前置詞であるならその後は名詞が続くことになるため、この sharing は動名詞、a video は sharing の目的語です。まとめて和訳すると「ビデオをシェア(共有)した後で」となります。
ところで、sharing の主語は誰でしょう?答えは Japanese Prime Minister Shinzo Abe。準動詞※の主語(意味上の主語)が省略されている場合、原則として本動詞(文型上のV)と一致します。
※不定詞、動名詞、分詞のこと。
3.a video of himself lounging
ここでの himself lounging は『意味上の主語+動名詞』の形で、和訳すると「彼自身がゆったりとくつろいでいる」となります。前述の通り、動名詞の意味上の主語は省略すれば本動詞と一致するため、文法上は himself が無くても問題ありませんが、「誰が何をしているビデオなのか?」ということを明確にすべく、意味上の主語 himself を明示していると考えられます。
4.drinking tea and reading
この2つのVingは動名詞とも現在分詞とも取れますが、ビデオの内容を見る限り動名詞と判断するのが良いと思います。
まず、動名詞と考える文法的根拠は and です。『A, B and C』と覚えたように、and によって3つ以上の要素を並列させる場合、and は最後以外はコンマで代用されるため、ここでは lounging, drinking and reading という動名詞3つが並列されていると考えることができます。いずれも意味上の主語は同じ himself である点も見逃せないポイントです。
他方、付帯状況の分詞構文と取って「紅茶を飲んだり読書をしたりしながら」と和訳して前の lounging を修飾すると考えたり、さらにはそれを読み下して「くつろぎながら紅茶を飲んだり読書をしたりしている」という和訳も可能ではありますが、ビデオでは愛犬・紅茶・読書が別々に登場するため、付帯状況の分詞構文が持つ同時進行の感覚とはズレてしまいます。
もう少し細かいことを言えば、この文では drinking の直前にコンマがありますが、「座って~している」という場合はこの位置にコンマを打つことはしないと思いますので、分詞構文ではなさそうに思えるのです。
5.with a message telling people to stay at home
ここの telling は動名詞ではなく現在分詞です。
a message という名詞を後ろから telling ~ home が修飾しており、直訳すると「家にいるよう言っているメッセージとともに」となります。
構造的には分詞構文の一種(with O C)とも取れるでしょうが、和訳に反映させづらいので、ここでは上のようなシンプルな捉え方で十分でしょう。
なお、なぜ telling が動名詞ではないのかというと、with Ving とは言わないからです。
『前置詞+名詞+Ving』のVingが動名詞である場合、その直前の名詞は意味上の主語となりますが、これは先述した通り本動詞の主語と同一であれば省略が可能です。前置詞は常に名詞と結びついていなければいけませんから、省略されて消えてしまっては困るのです。それゆえに、Vingが動名詞であるならそれは常に前置詞と結びついていなければならないのです。裏を返せば、前置詞と結びつきを持たないVingは現在分詞ということになります。
複雑な疑問文、ほか
“Who do you think you are?” became a top trend on Twitter, with users saying Abe’s message ignored the plight of those struggling to make a living during the coronavirus outbreak.
翻訳例
「何様のつもり」という言葉がツイッターのトップトレンドとなった。ユーザーからは、安倍首相のメッセージはコロナ禍において生計を立てるべく奮闘する人々の窮状を無視しているとの声が上がっている。
※管理人訳
語句
・ignore: ~を無視する
・plite: 窮状、困難な状況
・struggle toV: toVしようと四苦八苦する
・make a living: 生計を立てる
・outbreak: (伝染病などの)急激な発生
文法解説
1.文型
文型はSVC(第2文型)です。最初の “Who do you think you are?” を一つのセリフとして名詞扱いしており、それが主語として働いています。
S: “Who ~ are?”
V: became
O: a top trend
文型部分だけを直訳すると「『何様のつもり』がトップトレンドになった」となります。
2.Who do you think you are?
もともと日本語で「#何様のつもり」というハッシュタグがあり、それを英訳した形です。直訳は「あなたは自分が誰だと思っているのですか?」です。
文構造は “Who are you”+”Do you think” です。このとき、Do you think を文頭に置いてはいけません。
正:Who do you think you are?
誤:Do you think who you are?
英語の疑問文の作りはシンプルで、Yes/Noで答えてほしい質問は文頭にBe動詞や助動詞などを置き、Yes/No以外で答えてほしい質問は文頭に疑問詞を置きます。
「あなたは自分が誰だと思っているのですか?」という質問に「はい、思っています/いいえ、思っていません」と答えることはできず、たとえば「私は自分を王様だと思っています。」のように答えなくてはなりません。つまり、この質問は「はい/いいえ」で答えられない質問なので疑問詞から始める形が正しいのです。
もう一つ注意すべき点として、疑問形は1文につき1回だけというルールがあります。
正:Who do you think you are?
誤:Who do you think are you?
もともとは “Who are you?” でしたが、これに “do you think” が加わることで1文の中に2つの疑問文が存在することになります。しかし、do you も are you も疑問形なので、どちらか一方は疑問形でない形(平叙文)に直さなければなりません。では、どちらを直すのか?答えはもちろん、後に出てくる方です。疑問形になれるのは文頭に最も近い部分だけです。
3.with users saying
分詞構文の一種(with O C)です。独立分詞構文という呼び方もありますが、早い話が意味上の主語を伴う分詞構文です。
基本的には付帯状況「~しながら」の意味で捉えることができますので、ここでもそれを適用して「ユーザーたちが(~だと)言いながら」と和訳し、became a top trend「トップトレンドになった」を修飾させれば直訳は完成です。
よりよい日本語を目指すなら、主節との同時進行(並行世界)で起こっていること、といったイメージで捉えるようにすると柔軟な和訳へとつながっていくでしょう。慣れないうちは難しいかもしれませんが、分詞構文の和訳はあまり形式にあてはめようとしすぎないことが大切です。
ちなみに、saying と Abe’s の間には接続詞 that が省略されており、Abe’s ~ outbreak まですべてが saying の目的語です。
4.those struggling to make a living
those は後置修飾を受けることがあります。『those who ~: ~な人々』で覚えた人も多いと思いますが、関係代名詞だけでなく分詞による後置修飾もよくなされます。どちらにしてもこの those は原則として「人々」の意味を持つことを忘れないようにしましょう。
関係代名詞の継続用法(非制限用法)
Abe’s video, which featured his pet dog, was a response to popular musician Gen Hoshino, who uploaded a video of himself singing about dancing indoors and invited people to collaborate.
翻訳例
安倍首相のビデオは彼の愛犬を前面に押し出していたが、これは、屋内で踊ろうと歌うビデオを投稿し、人々にコラボレーションを促した、人気ミュージシャンの星野源の呼びかけに応じたものであった。
※管理人訳
語句
・feature: ~を主演させる;~を特集する
※発音注意:〇フィーチャー、✖フューチャー
・response: 反応;応答
・upload: ~をインターネット上に出す
・indoors: 屋内で(副詞)
・invite O toV: OにtoVするよう勧める
・collaborate: 協力する;合作する
文法解説
「コンマ+which」「コンマ+who」のような形で、関係代名詞の前にコンマがある場合、それを「継続用法」※と呼びます。
※非制限用法」という呼び方も同じ用法を指します。
継続用法は、基本的に名詞について何らかの補足説明を行う場合に用いられます。それゆえに事情を知っている人にとっては不要な部分となります。
ここで取り上げた英文から継続用法の部分を取り去ると次のようになります。
1.Abe’s video was a response to popular musician Gen Hoshino.
「安倍首相のビデオは人気ミュージシャンの星野源への反応だった。」
かなりスッキリしました。
すでに動画を見ている人にとって「安倍首相の愛犬が登場すること」はすでに知っていることです。
また、星野源さんの「うちで踊ろう」の呼びかけを知っている人は、「屋内で踊ろうと歌うビデオを投稿し、人々にコラボレーションを促した」という説明は不要です。
これが関係代名詞の「継続用法」の持つ役割です。
2.a video of himself singing
2つ前の項目で説明した「意味上の主語+動名詞」の形です。良い復習になりますね。
実際の動画と個人的感想
友達と会えない。飲み会もできない。
ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。 pic.twitter.com/VEq1P7EvnL— 安倍晋三 (@AbeShinzo) April 12, 2020
なるほど。批判を集めて当然だと思います。
動画よりもコメントがまずいですね。自粛要請に従って家にいる人たちの不満が「友達と会えない」「飲み会もできない」だけだと言っているように感じてしまいます。
「出勤をしないために収入が減る」
「慣れないテレワークで作業・ストレス倍増」
「同居人のモラハラ・パワハラ・虐待などで家にいたくないのに逃げ場がない」
などなど、非常に重い苦しい不安感に押しつぶされそうになりながら家にいる人だっているのに、それが見えていないかのよう。
また、「お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます」という部分は、外出を自粛できない人々の事情を無視しているかのようです。
たとえ医療従事者でなくとも、「インフラ関連の現場作業」は自粛など不可能ですし、
「仕事を続けていくため(首を切られないため)」
「日々の生活費を稼ぐため」
「代わりのきかない仕事のため」
などなど、様々な理由で出勤せざるを得ない人々の立場が全く考慮されていないかのようです。あるいは、自粛していない人間には感謝しません、とも取ろうと思えば取れます。
動画自体は、目を閉じていれば心地よい歌声しか聞こえないので問題ありません。それに、誰しも自宅でくつろぐ権利はあるでしょう。しかし、強いて言えば、総理大臣が今くつろいでいていいのかどうかは一考の余地があるとは思います。言及されている医療従事者の方々の果たして何パーセントの人が同じようにくつろげているでしょうか・・・。
記事のタイトルは適切だと思いますね。
<再掲>
Japan prime minister criticised as tone deaf after lounge-at-home Twitter video
「日本の総理大臣 自宅でくつろぐ姿をツイッターに投稿し空気が読めないと批判される」
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