共通テスト記述式、2段階選抜対象から外すことを検討
2020年度から始まる大学入学共通テストで国語と数学に導入される記述式問題について、文部科学省が国公立大に対し、2次試験に進む受験生を絞り込む「2段階選抜」の際に、国語の記述式を判断材料から外すよう求める検討を始めた。同省幹部が13日、明らかにした。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191113-00000077-asahi-soci
2段階選抜とは
簡単に解説しておきます。
2段階選抜とは、旧帝大や医学部医学科といった高い学力を要求する大学・学部を中心に毎年実施されている選抜方法です。
何が2段階かと言えば、センター試験が1段階目、各大学の試験(2次試験)が2段階目ということであり、2段階選抜を実施する大学では、センター試験の結果が悪いと2次試験が受けられないということになるわけです。これがいわゆる「足切り」という措置です。
「足切り」はその大学・学部を志望する受験生の数を一定数以下に抑えるための措置であり、概ね募集人員の3~5倍程度に設定されています。これは「予定倍率」という名目で募集要項などで事前に告知されています。
例えば東京大学(前期)の2019年度入試結果は以下の通りです。
※東京大学では以下の予定倍率を事前に公表しています。
・文科一類、二類、三類:約3.0倍
・理科一類:約2.5倍
・理科二類、三類:約3.5倍
2019年度 入試統計 |
募集人員 | 志願者数 | 第1段階選抜 合格者数 |
最終 合格者数 |
---|---|---|---|---|
文科一類 | 401 | 1,407 | 1,204 | 404 |
文科二類 | 353 | 1,183 | 1,064 | 364 |
文科三類 | 469 | 1,492 | 1,408 | 471 |
理科一類 | 1,108 | 2,915 | 2,771 | 1,128 |
理科二類 | 532 | 2,081 | 1,874 | 554 |
理科三類 | 97 | 405 | 340 | 97 |
上の表の「第1段階選抜合格者数」というのが、「足切り」を突破したセンター試験の得点上位者です。志願者数よりも人数が減っていることから、2段階選抜が実施されたことが分かりますね。
ここで合格して初めて東大独自の試験(2次試験)を受けることができるのであり、不合格の受験生は、この時点で東大受験は終了となります。
※国公立大学は基本的に前期・中期・後期の3回受験するチャンスがありますが、東大は現在前期のみの募集のため、足切りにかかってしまった受験生は、その年はもう東大に合格するチャンスはありません。浪人するか、他大学を受験するかのいずれかになります。
なぜ国語だけ?なぜ2段階選抜だけ?
本題に戻ります。
文科省は、国語の記述式の結果を2段階選抜の考慮対象から除外するよう各大学に要請する(検討中)とのこと。
ここには2点の問題が潜んでいます。
- 数学の記述問題を除外しないのはなぜか
- 2段階選抜以外であれば利用するのか
なぜ数学の記述式は除外しない?
1つめの問題については、記述式問題について国語との位置付けの違いという問題が大きいのかもしれません。
国語の記述は、従来のマーク問題の得点とは別枠であり、得点ではなくABCといった段階評価になるようです。この評価を各大学が得点換算するという仕組みです。
これに対し、数学は記述問題も本来の得点の一部になります。
こういった仕組みの違いから、数学の記述式の除外は国語より厄介なので、一旦保留になっているのだと思われます。
ただ、これについては時間の問題でしょう。数学の記述式が除外されないのは、結局のところ受験生の自己採点に不安を残したままとなり、せっかく国語を除外した意味がないという批判を受けて、いずれ除外せざるを得なくなるに違いありません。
大学の合否判定に記述式問題の得点を利用しない?
しかし、2つめの問題はやや危険です。
というのも、大学受験に関連・関心の薄い人々から「記述式は全ての大学入試から除外された」と思われかねないからです。
2段階選抜は全大学・学部において実施されているわけではない(むしろマイナーであり、先述した東大でさえ実施されない年度もある)ため、2段階選抜で除外されたところで、それ以外では利用されるとなれば結局問題の解決にはなっていません。
ややこしいかもしれませんが、2段階選抜はあくまで受験者数を絞るための措置であって、センター試験の得点利用法の1つに過ぎません。
多くの大学において、従来の合否判定はセンター試験の得点+2次試験の得点でなされます。
先述した東大でも、センター試験得点を110点、2次試験の得点を440点とし、計550点満点で合否を判定しますし、大学・学部によってはセンター試験の得点のみ(2次試験なし)で判定する方式もあります。
つまり、2段階選抜「だけ」を除外したところで、通常の合否判定から除外しないのであれば、ごく一部の受験生にしか影響がないのです。
このことを理解していないと、「記述式は2段階選抜から除外された」を「大学入試から除外された」と捉えてしまう人が出てくるのではないでしょうか。これが危険だということです。
危険な報道の例
そのような危惧をしている中で、まさに危険な報道が出てきました。フジテレビ系(FNN)です。
2次試験で「記述式除外を」 文科省が国公立大に要請検討(外部サイト)
タイトルの時点でアウトです。これでは、まるで2次試験で記述式問題を出題するなという意味に捉えられてしまうでしょう。
そして中身ですが、以下の部分が誤解を生む可能性が高いと思われます。
国公立大学の入試は、一般的に、現在行われている「センター試験」と、大学が個別で行う「2次試験」の2段階で選抜が行われる。
この書き方では、「2段階選抜が一般的」であるとみなされてしまいますが、上で述べたように2段階選抜の実施はごく一部(の難関大学)です。
2020年度からセンター試験に代わり実施される大学入学共通テストでは、国語と数学で記述式の問題が導入されるが、採点の公平性などが懸念されていて、文科省は、2次選抜の判断にマーク式の結果のみを利用し、記述式の結果を使わないよう、全国の大学に要請することを検討しているという。
ここは意味が曖昧です。「足切りに利用するな」ということなのか、「2次試験も含めた合計、すなわち合否判断に利用するな」ということなのか不明瞭です。
おそらく、記事を書いた人間がよく理解できていないのでしょう。「2次選抜の判断」ではなくきっぱりと「2段階選抜」と書かなければいけません。
そして、同時に2段階選抜の仕組みがいわゆる「足切り」(受験者の絞り込み)であることと、ほとんどの大学・学部では足切りがないことを説明しなくてはいけません。
いったい誰のために報じているのか、メディアはよく考えるべきです。
ちなみに、TBS系(JNN)はこれを正しく報道していました。
国語の記述式問題、「2段階選抜」からの除外要請を検討(外部サイト)
結局受験生の不安は解消されない
自分のセンター試験の得点が正確に分かればこそ、2次試験であと何点必要かが明確になり、受かりそうかどうかを判断する重要な材料になります。
自分の得点が一部不明なまま出願するというのは、一種の博打のようなことになってしまいます。
受験生の自己採点が難しいことを考慮するのはいいのですが、なぜ2段階選抜だけが考慮され、通常の方式については無視されているのでしょうか。
確かに、2段階選抜はセンター試験(大学入学共通試験)が悪ければ2次試験を受けることすらできないため、通常の方式と比べて出願を躊躇う気持ちが強くなるとは思います。
しかし、通常の方式であったとしても、受験生の心理からすれば、危険を冒して届くか届かないか分からない大学には出願したくないでしょう。この点は結局2段階選抜があろうとなかろうと変わらないと思います。
文科省はなぜ自前のルールを守らないのか
今回の措置について(記事ではまだ検討段階ということですが)、受験生の不安への配慮という名目で記述式を除外するのであれば、全大学入試において除外するのが筋だと思います。
結局、行きつくところは記述式導入の見送り以外ありえないことがわかります。
採点官にアルバイトを使うことに批判を受けて、退職教員や大学入試センター職員を採点官にするとか、1つの問題に3人体制で臨むとか、正直言って何の不安払拭にもならない案が報道されています。
その上、つい先日の11月11日に記述式の模擬テストが実施され、「採点者の事前研修」などと説明されています。
大学入学共通テスト 記述式問題を模擬テストで調査(外部サイト)
どれもこれも、試験実施の決定後に行うことですかね?実施まであと1年2ヵ月ほどしかありませんが。
文科省は自ら掲げているルールを平然と破っていますよね。
文科省の「2年前ルール」
第7 学力検査実施教科・科目、試験方法等の決定・発表
3 個別学力検査及び大学入試センター試験において課す教科・科目の変更等が入学志願者の準備に大きな影響を及ぼす場合には、2年程度前には予告・公表する。なお、その他の変更についても、入学志願者保護の観点から可能な限り早期の周知に努める。
採点に全く何の問題もないことが分かって初めて導入が検討され、遅くともその試験を受験する生徒が新しく高校2年生になる時点で制度や方式が明確になっていて然るべきだと思うのですが。
萩生田大臣の「身の丈」発言が英語民間試験導入延期の引き金になったのは記憶に新しいですが、今回の記述式に関しても、また何らかの失言を期待しないといけないのでしょうか?
文科省職員(大臣以下全員)は以下の問いに答えましょう。
センター試験を共通テストと改称し、国語と数学に記述式問題を導入することにおいてのメリット・デメリットを挙げて両者を比較衡量した上で、実施するか否かを決定し、受験生本人および関係者全員の不安を完全に払拭せよ。なお、採点はアルバイトの大学生が行うものとする。(配点 60億)
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