センター試験で足切りを行い、各大学が二次試験で記述式問題を出す。
センター試験は全問マークなので採点側がミスをする可能性が極めて低く、受験生も、問題冊子にメモさえしてあれば、公表される解答で容易に採点ができる。
二次試験のみの記述問題であれば、50万人もの答案をさばく必要がないため(多くても5,000~10,000人ほど)、統一の採点基準で、かつ決められた期間内に採点することは十分可能。
今のこの仕組みはよくできています。なぜ変える必要があるのかはなはだ疑問です。
それでも、利権だかしがらみだか知りませんが、大学受験生全員に対して記述式を導入したいというのであれば、私は以下のような問題を出題すべきだと考えます。
※私は数学については門外漢なので、国語の記述式問題についての提案をします。
漢字の読み書き
漢字の読み取り
例題1. 次の1~4の漢字の読み方を平仮名で答えなさい。
- 代替
- 凡例
- 割愛
- 遵守
例題2. 次の1~4の下線部の読み方を平仮名で答えなさい。
- 一朝一夕
- 一期一会
- 前代未聞
- 上意下達
以上のように、日常的な表現の他、四字熟語やことわざなども積極的に出題すべきです。
※もっと言えば、「通り」(〇とおり×とうり)や「雰囲気」(〇ふんいき×ふいんき)のような小・中学校レベルであっても出題すべきとも思います。大学入試は、日本人として知らないと恥ずかしいレベルの知識を確認する最後のチャンスと考えるべきでしょう。
※たとえば重複(ちょうふく)は「じゅうふく」と読む人が増えてきており、これをいわゆる「言葉の変化」ととらえる向きもあるようです。このように、漢字によっては、何を間違いとするかは議論の余地があると言えます。いっそ国民投票でもしてはどうでしょうか。
漢字の書き取り
例題3. 次の1~4の下線部を漢字に直しなさい。必要ならば平仮名で送り仮名も付けなさい。
- アヤマチを犯す
- ゲ熱剤
- 引ソツの先生
- 完ペキ主義
例題4. 次の1~4の下線部を漢字に直しなさい。
- 絶タイ絶命
- 自ガ自賛
- 異ク同音
- 危機一パツ
※書き取りについては、現状のセンター試験の選択問題でもある程度は力を試せていると思うので、そこまで増やす必要はないかもしれません。ただし、語彙力強化のためにも四字熟語などの出題は増やすべきだとは思います。
正しい日本語の運用能力
誤用指摘問題
例題5. 次の文の下線部①~⑧のうち、4つには誤りが含まれている。誤りを含む番号を選び、それを訂正しなさい。
日本人の書いた英文は、我々ネイティヴ・スピーカー①からすると大変②読みずらいのだが、私は教員③とゆう立場上、そうした文を読ま④ざるおえないのである。しかし、学生の答案を1枚⑤ずつ丁寧に読んでいると、次第に私の英語感覚まで麻痺⑥してきて、どれが⑦間違えでどれが正しいのか、自分でもよく分からなく⑧なってくるのだ。
問題の形式作りに少し悩みましたが、上記のような誤用はインターネットを中心に非常に多く目にしますので、大学生になる前に正す機会を与えるためにもぜひ出題して欲しいところです。ちなみに、本文は私がその場の思いつきで書いたものです。
日本文化への親しみ
疑似暗唱テスト
例題6. 次の文を読み、空所に適切な語句を補いなさい。
[1.行く川のながれは絶えずして]、しかももとの水にあらず。[2.よどみに浮ぶうたかたは]、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。
上記はご存知の通り、鴨長明『方丈記』の冒頭部分です。中学校などで暗唱した人も多いと思いますが、こういった名文を覚えておくことは日本文化の継承にも役立ちます。
それこそお題目のように文科省が唱える「これからのグローバル社会のために云々」という点においても、日本人として世界を相手にする時、自国の文化を説明できない人間では恥ずかしいわけですから、このような教育にももっと力を入れて然るべきです。
※私個人は古文・漢文に代えてこの問題を出してもいいようにも思いますが、有識者の意見を待ちたいところです。
※答案に漢字を書かせるかどうかについては、教科書などで手本として書かれているものの通りに書くことを基本としつつ、特に不都合のない限り漢字について減点はしなくてもよいと思います(実際に暗唱する場合は漢字が分からなくても大丈夫ですからね)。
採点について
正確性・公平性
以上のような記述問題であれば、正解そのものは1つしかないため採点の正確性および公平性は問題なく守られることになります。
しかし、過去の記事で指摘しているのですが、本人が正しい文字を書いているつもりでも、周りから見ると読めない、あるいは似たような他の文字と判別がつかないといったことが必ず起こります。
最近では文字認識の精度が向上してきていますから、採点をコンピュータに任せるという選択肢もアリな気がします。
もちろん、採点をすべて任せられるほどの精度があるかどうか、これはすなわち信頼度の問題でもありますから、今は焦らず、人間の採点官による採点をメインとし、採点官が迷った場合のみコンピュータ認識という形でもいいかもしれません。
受験生の自己採点
予め、手本となるフォントで印刷された日本語一覧を学校やインターネットで配布しておき、練習できる環境にしておく必要があります。
※平仮名・片仮名の一覧も含め、小・中・高の必修漢字一覧を、印刷物なりネットなりでいつでも見られる状況にありさえすれば問題はないでしょう。
このフォントは現在教科書などに使用されているものから選んでもいいでしょうし、大学入試センターや文部科学省が製作するなどしてもよいでしょう。
受験生の答案はスキャナーで画像データに変換し、ネットからダウンロード、もしくは郵送で受験生本人が確認できるようにします。
こうすれば、手本と照らし合わせて自分の書いた文字を採点することができます。
※もちろん、とめ・はね・はらいなどの採点基準も詳細に決めておくべきですが、それは硬筆や書道の専門家などにお任せします。
提言の意図
SNSが隆盛の現代において、発信の中心が「文字の読み書き」であることは間違いありません。
日本人は日本語を使って発信しているわけですが、機械変換によって漢字が書けなくなってきているだけでなく、読むことすらできない人も増えてきています。
日本の大学入学希望者が日本語に不自由している現実を看過すべきではありませんから、記述問題で一定以上の力を有することを確認することは非常に大切なことです。
「今どきの若者は・・・」と嘆かれる若者を減らすことを責務と捉え、文部科学省を始めとする教育関係者は、日本語教育について改めて見つめ直す時期ではないかと思うのです。
とりあえず、上記のような記述式問題が出されるとなれば、それだけで生徒の「書く」ことへの意識は高まるはずです。
それと同時に、ことわざ、四字熟語、故事成語、名文の暗唱といった課題があれば、日本語の語彙力だけでなく、日本文化や歴史などへの理解度も向上し、グローバル社会の中で「日本人」としてやっていくことができるようになるのではないでしょうか。
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コメント
国語教育においてこうした試験を行うことに意義はあると思いますが、これは「大学入学共通テスト」としてではなく、高校の基礎学力テストとしてやる内容ではないでしょうか。なお、現在進められている「学びの基礎診断」はベネッセのスタディーサポートに酷似したものが予定されており、私はその実施には反対です。
コメントありがとうございます。
要するに、ここで挙げた例題はレベルが低いのでは、ということですよね。私もそれは理解していますが、大学全入と呼ばれる今の大学受験生には、このくらいのレベル設定でも選抜の役割は十分果たせると思っています。
学びの基礎診断については大学入試とは異なる位置づけだと思われるため、ここに挙げた例題が相応しいかどうかも含め、その賛否について私は判断しかねます。
何にせよ、この記事の趣旨は「50万人超が受験し、採点期間も20日ほどしかない大学入学共通テスト(の国語)にどうしても記述式問題を導入するなら」こういった問題が妥当ではないかというものですから、内容よりも形式のほうに注目して読んでいただけるとありがたいです。
他に良い案があればぜひご教示ください。