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【おすすめ参考書】#0003『心にとどく英語』(マーク・ピーターセン著)

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英語を勉強しようと思って本屋さんへ行くと、英語関連の参考書がありすぎてどれが良いかわからないという人もいるでしょう。

そんな人に、私がこれまで読んできた参考書の中から絶対に役立つものを厳選してご紹介します。

心にとどく英語

前回までに紹介した【おすすめ参考書】#0001『日本人の英語』【おすすめ参考書】#0002『続・日本人の英語』に続く第3弾です。

この本の初版は1999年3月なので、1990年9月の『続・日本人の英語』から約8年半ぶりということになります。

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Ⅰ 英語の発想
 1 マラソンが彼にチャレンジする
 2 時制はドラマをつくる
 3 willではないがmightではある

Ⅱ 日常もドラマだ
 1 頼れるレトリック
 2 宿題は「haveの世界」
 3 getをモノにして
 4 「微妙なこころ」を添える

Ⅲ 会話にスパイスを
 1 excuseで世渡り上手
 2 youはyouでも「あなた」じゃない
 3 「入場券でも売ったっていうのか」

Ⅳ 意思貫徹の会話術
 1 隠された「つもり」
 2 女を侮辱する表現あれこれ
 3 去る者は日々に疎し
 4 careは人間関係の要

謝辞――あとがきにかえて

50人のクラスだったらほぼ50人の学生が思い込んでしまっている

前著『続・日本人の英語』では、比較的著者本人の興味を中心とした主題・例文などが多く、それらがやや古い映画や小説などからとられていることもあり、少し取っつきづらく感じた人もいたかもしれません。

前著からはある程度時間が経っているので、そうした評判のせいかどうかはわかりませんが、今回の本では例文の多くが日常的な状況なのでわかりやすく、しかもテーマがより日本人のつまづきやすい箇所に明確に絞られており、名は体を表すかのごとく、読者の心にもしっかりとどくようになっています。

こう書くと前著を批判しているように聞こえるかもしれませんが、全くそうした意図はありません。前著は肩肘の張らない随筆系、今回の『心にとどく英語』は焦点を定めたHow-to系という毛色の違いがあるということです。

とにかく、冒頭から怒涛の誤り指摘攻撃は痛快です。以下にその一部を引用します。

「(何かに)挑戦すること」が”to challenge (something)”という英語になると,50人のクラスだったらほぼ50人の学生が思い込んでしまっていると言ってよいだろう.

英語の時制については,多くの場合,たとえば,「はい,(いま)わかりました」のつもりで,Yes, I understood. (はい,〔あのとき〕分かっていました.) などと書き,また「分かっています」のつもりで,I am understanding. (私は,人の気持ち,立場などの分かる人間だ.)などと書く.つまり,日本語の「~た」が英語の過去形に相当する者であり,「~ている」が英語の現在進行形に相当するものだと思いこんでいたりする.

ある日,大学生に”She got into the classroom”を日本語に訳してもらった.結果は,全員が「彼女は教室に入った」とした.そして「それでは,”She went into the classroom”は?」と訊くと,皆同じく「彼女は教室に入った」にしたのだった.つまり,どういうわけか,彼らには両方とも同じようにしか受け止められていない,という驚くべき事実を思い知らされたのである.

まだまだありますが、今作『心にとどく英語』はとにかくテンポが良いです。

前作から8年以上が経過する中で、著者が溜めに溜めた「日本人の英語」を、まるでストレスを発散するかの如く次々と論理的に訂正していくさまは、一瞬のうちに引き込まれて、あっという間に最後まで読み切ってしまうほどです。

『日本人の英語』の紹介にも書きましたが、著者は生粋のアメリカ人であり、日本語は完全に外国語なのですが、最後までまったく気になることなく読了してしまいました。

再読、再々読しつつ、意識して読んでみると少し気になるかな、という箇所もなくはないですが、どちらかというと重箱の隅的なものに過ぎない程度のものがほとんどです。

改めて、著者の努力に敬意を表します。

人生は、やることを最後まであきらめずにやるものだ

これまでの著作でもページを割いて説明されてきていますが、特に今作で深く印象に残ったのが、「時制はドラマをつくる」と題された一節です。

その冒頭部分だけでもインパクトが強いので、以下に引用します。

とある日,東京でテニスの試合を観ていたとき,相手の速いサーブに圧倒されていて勝負をあきらめてしまいそうな外国人の選手を励ます掛け声として”Never give up!” というのを聞いて奇妙に感じたことがある.当然,いま頑張っているこの試合を「あきらめちゃいかん!がんばれ!」という励ましのつもりだとは分かったのだが,それなら,英語では”Never give up!”ではなく,”Don’t give up!”と言うのがふつうである.”Never give up!”の”Never” (=not ever)は,この力強い励ましを一般論にしてしまう.「人生とは,やることを最後まであきらめずにやるものだ」と,試合中に言われても,選手の方も困るだろう.

いうまでもなく,neverは,「いつであろうと~でない」という意味を表す時間的表現である.”Never”をここで使ったのは,おそらく強調,つまり「絶対に」といったくらいのつもりだったのだろうが,このごく些細な例は,「時」に対する柔軟性に富む日本語と,「時」に対して神経質な英語とのすれ違いを象徴的に表しているように思えるのである.

出典:マーク・ピーターセン『心にとどく英語』(1999, 岩波書店)

時制は難しいです。

中学・高校の6年間にわたり、現在時制から始まり、進行形、過去形、未来形まではどうにかなるものの、完了形が登場するとお手上げの人が急激に増えます。過去完了、未来完了、完了進行形など何をかいわんや状態。

それでいて、読むにしても書くにしても、避けては通れないんですよね。時制のない文は存在しませんから。

私自身、教える立場に立って初めて本気で勉強しました。それまでは和訳は機械的に、英作文ではなるべく複雑な時制は避けて、といった感じでした。それまで使っていた参考書ではニュアンスの違いというか、いわゆる使いどころは分からなかったんですね。

この本で(前作までの著作も含めて)それがあっけなく氷解したときは鳥肌が立ったものです。

もっと早くこうした参考書ではない参考書に触れる機会があればなあとつくづく思いました。

どんなに勉強熱心でも、答えの出ない問題にいつまでもぶつかり続けていたら熱は冷めるし、挫折感と徒労感しか残らないのは辛いものがあります。

これを読んでからは、今でもこのエピソードとともに授業をしていますし、むしろ生徒には押し売りをしている状態です。「いいからマーク・ピーターセンを読みなさい」は、これまで教えてきた生徒のほとんど全員に言ったかもしれません。

話が大きく逸れましたが、要するに何が言いたいのかというと、「時制は難しいけど、この本を読むとわかるようになるよ」ということです。

ののしり言葉,取扱注意

『心にとどく』のは良いことばかりではないわけで、しっかりと良くない言葉についても言及されています。しっかり言語としての性質を分析しつつ、個人的なイメージを挟みながらその使用を避ける方へ自然と導く流れは秀逸です。

“fuck”という下品な言葉が頻繁に映画に登場するようになったのは,70年代からである.一般のテレビやラジオの放送では,今日でも禁止されているこの単語は,「禁止英語」の代表格である.

伝統的に下品すぎて禁じられている英語は,「性関係」(例:fuck)とトイレ関係(例:shit)と「キリスト教関係」(例:damn)という三つのタイプに分けられるが,使う時は,どれもそもそもの「文字通り」の意味を連想して使うわけではない.「こん畜生!」と言った日本人が動物を連想したりしないように,God damn you! (地獄に落ちろ!――文字通りには神様があなたを永遠の罰に処するよう!)などと言っても,神様や地獄をいっさい連想しないのである.ただただ,理屈抜きで,感情を表しているだけだ.

このごろ,善かれ悪しかれ,豊富にあるこうした「禁止英語」のいくつかが洋画や音楽などを通して日本人にもひろく知られるようになっているようである.知っていることはよいことだろうが,自然に使うことは不可能に近い.

つまり,場面としていくらでも下品な言葉であってよいとしても,これは頭で考えて使う表現ではなく,思わず口をついて出てくる表現なので,「ちょっと使ってみた」程度では,わざとらしく聞こえる可能性がきわめて高い.ネイティヴ・スピーカーでも,使いなれなていない人が意図的に使おうとすると,顰蹙を買うだけである.それは,下品だからではなく,嘘っぽいからである.

ネイティヴ・スピーカーでない人が使った場合,たとえば「語感」など特に感じない日本人同士の間なら,差し支えないと思うのだが,英語としては,これもまさに”格好悪い”としか表現しようのないものになりかねない.というのも,これも下品だからでは決してなく,まるで小学生が初めて知った「汚い言葉」を得意そうに使ってみせているようなものに映るからである.

出典:マーク・ピーターセン『続・日本人の英語』(1990, 岩波書店)

それが良いものであれ悪いものであれ、外国語はどうしても感情と言葉の間にワンクッションあるような、一歩引いた感じがしてしまいます。何十年使っていても、なかなかこの感覚は取れません。

私はまだ、幸運にも英語で相手をののしらなければならない場面に遭遇したことはありませんが、感謝を伝えたいと思っても、英語だといまいち感情がこもりにくく、ちゃんと伝わっているのか不安になります。

ここはthankを使うかappreciateを使うか、はたまたyouを主語にして何か良いことを言うか・・・。そんなふうに考えているうちにタイミングを逸してしまうのが一番良くないのですが、いまだにそれをやってしまうときもあります。そういう場面ほど後から何度も思い出しては相手に申し訳ない気持ちでいてもたってもいられず、「勉強が足りない」ということを思い知らされてとにかくヘコみます。

また話が逸れました。

上の目次でわかる通り、本書には「女を侮辱する表現あれこれ」という衝撃的なタイトルの章までもあり、もちろん勉強にはなりますが、使いどころのない英語をたくさん見ることができます。

そして、そのあとは気の利くことに、仲直りについて書かれた章へと続いていきますが、この中で、loveよりもcareのほうが意味的に強くなりうることが説明されており、これもまたある意味で衝撃を覚えました。簡単な単語ほどやはり深いものですね。

ここまででピーターセン氏の代表3部作と言える本を紹介してきました。

本気の学習者に本気で応えてくれる本です。ぜひご一読ください。

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